私の祖父母は家からそんなに離れていない所に住んでいました。
車を使えば十分もかからないような距離で、しょっちゅう両親が頼まれた買い物やお出かけに付き合って、非常に近い距離でした。
ですから、夏休みに「田舎に帰る」といったような経験はまったくあらず、そんな友人を羨ましく思っていました。
私が小学三年生の時の夏休み。
自転車で近場であればどこへでも行けるくらいになり、初めての遠出として自転車で祖父母の家に行き、一泊をするという計画が持ち上がりました。
子供の自転車ですと確か三十分くらいかかる距離で、途中には鬱蒼とした木々のトンネルがあったり、車では味わうことのできないちょっとした冒険気分を味わいなら到着しました。
「よく来たね」と祖父母が褒めてくれて、お小遣いをくれました。
そして、夏らしく素麺を食べ、近所にカブトムシを探しに行ったり、少し歩いて厩舎の馬を見に行ったりし、一日を過ごし、夕飯に手作りの餃子を満腹になるまで食べ、普段は帰るだけの場所で初めての宿泊をすることになりました。
その時、祖父母の実家にはクーラーがなく、扇風機だけが唯一の涼を取る機械でした。
しかし、子供に扇風機の風はずっと浴びせるのはよくないと考えたらしく、祖母が私の布団の横で「団扇」で扇いでくれました。
扇風機のような勢いや男性が仰ぐ力強さはありませんでしたが、優しくそよぐ風は気持ちよく、すぐに眠ることができました。
クーラーも扇風機も使えるようになった今でも、その風が一番涼しい風です。
一番涼しい風。

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