夏の朝の匂いをかぐと、私の胸は思い出に満たされてじんわり温かくなります。
私の家は父の仕事の都合で7月の最後の日の夜に海水浴へ行くのが毎年の恒例行事となっていました。毎年夏休みに入るとその日が待ちきれないほどソワソワして、当日になると朝ご飯も食べずにはしゃぎ回っては父にお前だけおいて行くぞ!とどやされたりしたものです。
昼間は母とクーラーボックスを物置から出して海の準備をしたり、姉と近所のスーパーへ車の中で食べるお菓子を調達に行きました。そして夕食を食べ終わると母がおにぎりを握り始め、父が荷物を車に積み始めます。
父は仕事でハイエースに乗っていたので、3列目の座席を畳みそのスペースに布団を敷いていました。私はお気に入りのタオルケットと昼間買ったお菓子などを持ち込んで、日付が変わる頃にいよいよ出発です!
子供の頃は夜の10時を過ぎて寝ないと怒られましたけどこの日は特別です。車の後部に姉と寝そべって、窓から流れるように見える道路のオレンジのライトがこれから海に行くんだと興奮をかきたてますが、私もそのうちに眠りに落ちてしまいます。
そして車の振動が止まったことに気付き目を覚ますと、開いた窓からは草のにおいと湿気のまじった夏の朝の空気がただよってきます。まだ早朝で薄暗く、駐車場からは線路が近いため長い長い貨物列車が通るのをぼんやりながめていました。
そのうちに家族も目を覚まし、普段より早い朝食に母の作ったおにぎりとカップラーメンを食べると、はやる気持ちで浮き輪をふくらませ水着に着替え海へと走ります。
私はカナヅチで水があまり得意ではありませんでしたが、波打ち際で浮き輪に乗ってプカプカと遊び、時には海辺のすべり台で滑って見てはおぼれたところを父に救出され、夏の日差しの中おもいっきり遊び回りました。
海の家で昼食を食べ父が一眠りすると、もう帰らなければいけない時間です。名残惜しい気持ちで海とお別れをし、車の中でぐっすり眠って家へ帰りました。
今自分が親になって子供たちを連れて海へ行くこともありますが、あの頃に感じたワクワクする気持ちはやはり思い出の中のものだなと実感します。せめて子供たちには私が深い思い出になっているように、両親が私たちにしてくれたよう精いっぱい楽しませてあげたいなと思います。
毎年の恒例だった海水浴

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